京都地方裁判所 昭和55年(ワ)973号 判決 1981年4月08日
原告
村井美栄子
被告
脇田ミモザ株式会社
ほか一名
主文
被告らは原告に対し各自金三二万七三五三円及びうち金二九万七三五三円に対する昭和五三年一二月二八日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを一〇分しその一を被告らのその九を原告の負担とする。
この判決第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
被告らは原告に対し各自一一〇〇万円及び内一〇〇〇万円に対する昭和五三年一二月二八日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
仮執行宣言
二 被告ら
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1(1) 原告は訴外亡村井達也の母であり、かつ唯一の相続人である。
(2) 被告脇田ミモザ株式会社は室内装飾品の販売等を営む会社であり、被告川口孝は被告会社の従業員である。
2 昭和五三年一二月二四日午後二時四五分頃村井達也は自動二輪車(京み二八一一)を運転し時速約五〇キロメートルで京都市伏見区醐醍合場町六番地の一先府道大津宇治線付近を南進中、同所路上に南向きに停車中の被告川口運転の普通貨物自動車(滋四四な四九六八)の右ドアが急に開けられたため、そのドアと衝突してバランスを失い対向車線を北進中の訴外北村明夫運転の普通乗用自動車(京五五い九二四五)と衝突して転倒し、脳挫傷、頭蓋骨骨折等の傷害を受け同年同月二七日午前一〇時五二分頃同区桃山町泰長老一一五番地大島病院において右傷害のため死亡するに至つた。
3 本件事故の発生した府道大津宇治線は車両の交通量が極めて多く、事故現場付近は直線で路面も平たんであり前後方とも見通しは良い。
被告川口は、本件事故現場付近の交通量が多くかつ自己の車両の後部にカーペツトや本箱等を多量に積み込んでいて車中より後方の見通しができない状態であつたから左側のドアから降車すべきであつたし、仮に右のドアから降車する場合にも後方の安全を十分に確かめてドアを開けるべき注意義務を負つていた。
被告川口が左側のドアから降車するか右側のドアを開けるに際し十分後方の安全確認をしていれば村井達也運転の自動二輪車を容易に発見することができ事故の発生を未然に防止できたはずである。
しかるに、被告川口は左側ドアから降車をせず、また全く後方の安全確認をすることなく右側ドアを突然開けたため事故を発生させたものである。
4 被告会社は、被告川口運転車両の保有者でありその運行によつて事故が発生したのであるから、これにより生じた損害を賠償すべき義務を負う。
5(一) 逸失利益 村井達也は昭和三八年九月一三日生れの健康な男子であり事故当時中学三年生であつた。一八歳より六七歳まで就労可能であつたから、その逸失利益を死亡時の一時払額に換算すると三三八四万円となる。
原告は唯一の相続人として右損害賠償債権を相続により取得した。
(二) 葬儀費用 原告は昭和五三年一二月二八日村井達也の葬儀を行ない仏檀を設けたがその支出した諸経費は合計一〇〇万円である。
(三) 慰藉料 村井達也は、原告の長男であり唯一の息子である。原告は村井達也の将来に嘱望していたのであるがその事故死による失望と悲嘆は筆舌に尽せないものがあり、右精神的苦痛に対する慰藉料としては一二〇〇万円が相当である。
6 原告は本件事故に関し自動車損害賠償保険より一七七三万二五五〇円を受領し傷害分を除く一六七一万円を前項の損害に充当した。
7 よつて、原告は被告川口に対し民法七〇九条により、被告会社に対し自賠法三条によりそれぞれ前記5(一)(二)(三)の損害金合計四六八四万円より6の保険金一六七一万円を控除した三〇一三万円の内金として一〇〇〇万円及びこれに対する事故の翌日である昭和五三年一二月二八日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
8 原告は、本訴を提起するにあたり原告代理人との間で勝訴判決が得られた際請求額の一割に相当する額を弁護士費用として支払うことを約した。右金額一〇〇万円は本件訴訟を遂行するに必要な費用であるから被告らに対し支払いを求める。
二 被告らの認否及び主張
1 請求原因1(1)の事実は不知。同1(2)の事実は認める。同2の事実のうち、事故発生の日時場所と衝突したこと及び村井達也が死亡したことを認め、事故の態様を否認する。同3の事実は否認する。同4の事実のうち、被告会社が被告車の保有者であることを認め、その余は争う。同5は否認する。同6の事実は認める。同7、8は争う。
2 本件事故は村井達也が無免許未熟のうえ時速八〇キロメートル以上の猛速度運転によつて生じさせた自招危難である。すなわち、被告川口は下車しようとして運転席で右サイドミラーで後方の安全を確認し、右ドアのキヤツチを引きドアが約二〇センチメートル外側に食み出し、左手でシートを押して尻を浮かし一回右に移動し二回目に尻を右にずらせた時に事故が起つた。村井達也は当時中学生であり危険を十分認識し、これを回避する余裕があつたのに後部に乗せていた池田勇にいいところをみせようと考え被告車の右側面一杯に接近し通過しようとして暴走危険行為に及んだ末左グリツプ付近を原告車右ドアに激突させた。
被告川口には全く過失はなく被告車には機能の障害も構造上の欠陥もなかつたから被告会社は免責されるべきである。
仮に何らかの過失があつたとしても村井達也の故意に近い重過失に鑑みると被告らの負担すべきはせいぜい一〇パーセント程度である。
第三証拠〔略〕
理由
一 (事故状況と責任) 昭和五三年一二月二四日午後二時四五分頃京都市伏見区醍醐合場町六番地の一先府道大津宇治線路上で村井達也運転の自動二輪車が停車中の被告川口運転の普通貨物自動車の右ドアに衝突したこと、村井達也が死亡したこと、及び被告会社が被告車の保有者であることは当事者間に争いがなく、右事実と成立に争いのない甲第二号証、同第五ないし第七号証、乙第一ないし第一七号証、証人池田勇の証言及び被告川口孝本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。
右事故当時被告川口は被告車を運転して南進し事故現場道路左(東)側端に停止し道を尋ねようとして下車すべく一旦サイドミラーで後方からくる車両の進行状況を見ていたが開扉直前に後方の確認をしないまま運転席右ドアを開き始めた途端後方から時速五〇ないし六〇キロメートルで南進してきていた村井達也車(四〇〇C・C後部に池田勇が同乗)が被告車の右側一杯を通過しようとして左ハンドルを被告車の右ドアに衝突させて右方向に暴走し折から対向車線を北進してきていた北村明夫運転のタクシーの右側面に衝突してさらに左方に暴走し路上に転倒した。村井達也は右事故により脳挫傷、頭蓋骨骨折等の傷害を負つて意識不明となり直ちに京都市伏見区桃山町泰長老一一五大島病院に収容されて治療を受けたが昭和五三年一二月二七日午前一〇時五二分頃右病院で死亡した。
本件事故現場は全幅員六・九メートル、南行車線幅員三・四メートル、北行車線幅員三・五メートルの南北に通ずる車道とその西側に幅員二メートル、東側に幅員一メートルの各歩道とからなる道路の南行車線上で、同所付近の見通はよく駐車禁止、速度制限毎時四〇キロメートルの規制のある交通の極めて多いところである。被告車の車幅は一・六九メートルであり南行車線の車道東側端歩道に接して停止していた。
村井達也は当時一五歳で運転免許を取得しておらず、ヘルメツトを頭上に乗せていたが紐で固定していなかつた。
以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右事実によると、被告川口は、交通量の極めて多い車道上に停車し右車道側のドアを開く場合は後方から車両が通過していくので開いたドアに接触する危険性が多いのであるから後方の安全を確認しながら開扉すべきであつたのにこれを怠り一旦は後方をみたものの村井車が接近してきているのを見落し慢然後方からくる車両はないものと考えてドアを開き始めたため折から接近してきていた村井車がこれに左ハンドルを接触させ本件事故を発生させたものであつて過失があるというべきである。しかしながら、村井達也もまた、無免許であつて車両の運転方法、技術、法規等について習熟しておらず、ヘルメツトを頭上に載せていたけれども紐で固定していなかつたため役立たない危険な状態で運転していたうえ、制限速度が四〇キロメートルでありかつ左前方に車両が停車しているのを現認できており進行すべき南行車線の道路中央線までの余裕が約一・七メートルしかないのであるから十分に減速して安全に停止車の右側を通過すべきであつたのに五〇ないし六〇キロメートルのまま進行を継続したため本件事故を発生させ重大な結果を生ずるに至らせたのであるから同人にも重大な過失があつたものというべきである。以上の事情を併せ考えると、被告川口と村井達也の各過失割合は七対三の割合とするのが相当である。
二 (損害) 前記事実及び成立に争いのない甲第一号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると次のとおり認めることができる。
1 逸失利益 村井達也は昭和三八年九月一三日生れの健康な男子で中学校三年生在学中であつた。就労可能年数は四九年、そのホフマン係数二二・五三、一八歳の男子平均給料月額一〇万五三〇〇円、生活費割合五割とするのが相当であるからこれによる逸失利益は一四二三万四四五四円である。原告は唯一の相続人として右損害賠償債権を相続した。
10万5300×12×0.5×2253=1423万4454
2 葬儀費用 葬儀が執行されたこと、原告がその費用を負担したことが認められ、被害者が中学生であることを考慮すると、原告の損害として請求しうべき葬儀及びこれに付随する費用の総額は五〇万円とするのが相当である。
3 右1、2の合計額一四七三万四四五四円と傷害に伴う損害額一〇二万二五五〇円(本訴請求外であつてこの額は当事者間に争いがない。)との総額一五七五万七〇〇四円について前記過失割合により按分すると原告の請求しうべき損害額は右の七割である一一〇二万九九〇三円(但し、傷害分を含む。)である。
4 慰藉料 本件事故の態様、原告と被告川口双方の過失の程度、被害者の年令、家族構成等を考慮すると原告の精神的損害に対する慰藉料としては七〇〇万円が相当である。
5 原告が本件事故に関し自動車損害賠償保険から右傷害分を含み一七七三万二五五〇円を受領していることは当事者間に争いのないところであるから前3、4項の合計金額一八〇二万九九〇三円からこれを控除すると二九万七三五三円となる。
6 原告は本件訴訟の遂行を弁護士に委任しており、本件訴訟の内容、経過、認容額その他諸般の事情を勘案すれば原告が支出する弁護士費用のうち損害賭償として請求しうべき額は三万円とするのが相当である。
三 よつて原告の被告らに対する本訴請求は各自三二万七三五三円とうち二九万七三五三円に対する不法行為の日以後である昭和五三年一二月二八日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉田秀文)